おこりじぞう

かなり、昔に、役者の沼田曜一さんの朗読を聞く機会がありました。

そのとき、語られていたのが「おこりじぞう」というお話しでした。

昔、日本が戦争をしていた頃、広島のある横丁にお地蔵さんが立っていました。「うふふふ」と笑った顔をしているので、笑い地蔵と呼ばれて親しまれていました。

1945年8月6日、ちょうど6歳の誕生日を迎えた女の子ヒロちゃんは、横丁の笑い地蔵の下へ遊びに行きました。しかし、真っ青に晴れ渡った空に1機のB-29爆撃機が飛来して、街の真ん中へ爆弾を投げつけました。すると、太陽が堕ちたように全てが吹き飛ばされ、目や耳が潰れ体中に火傷を負った人々が苦しそうに呻いています。横丁のお地蔵さんも吹き飛ばされ、笑った顔だけが地面から覗いていました。

ヒロちゃんは背中に大火傷を負い、お母さんの名前を呼びながら水を求めました。そして知らず知らずのうちに笑い地蔵のすぐ近くに来ました。街は破壊され、苦しみに喘ぐ人々を目の当たりにした笑い地蔵の顔は、徐々に怒った顔つきになっていきました。そして目から涙を流し、それが水を求めるヒロちゃんの口へとポタポタと落ちました。渇望していた水を喉を鳴らして飲むヒロちゃん。喉を潤すと、ヒロちゃんはかすかに微笑みました。歌でも唄っているかのように口を動かすと、そのままガクッとうなだれて動かなくなりました。

次の瞬間、おこり地蔵の顔がグラッと揺れ、もう耐え切れないと言わんばかりに砕け散りました。

作者は、児童作家の山口勇子さんです。

私は、沼田曜一さんの語りで聞いたのですが、最初静かなのどかな雰囲気が、急にがらりと変わり、やりきれない悲しみと怒りを訴えかけてきました。さすがに一流の役者さんです。

いつまでも心の片隅に残っているおはなしでした。

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